週刊 日本の天然記念物(動物編)

003 アマミノクロウサギ

奄美大島と徳之島に棲息するアマミノクロウサギにとって以前はハブだけが大敵だった。といっても巣穴をハブと共有している形跡もあり、実質、島の生態系の最上部に位置していて、特別天然記念物とはいえ、森の神々に守られた生命の一つであった。ところが、その島に多くの人間が移り住むことで、生態系は狂っていく。まずは人間が持ち込んだイヌやネコが野生化したことで天敵が増えた。極めつけはハブ退治に効果あり、と輸入された30頭あまりのマングースだ。なんとこいつらハブを喰う前にアマミノクロウサギやトゲネズミなどの弱い小動物を補食して増えていってしまった。そりゃ猛毒のハブを襲うより、か弱いアマミノクロウサギ食ったほうがマングースにとって、とっても楽チンなのである。それにしても、ハブにはマングースだ!と、だれが考えてしまったのだろう? 当時ハブの被害に悩まされていた人間達はインドに視察団を送る。そこでハブとマングースが天敵関係であることを知る。ハブ(とかコブラね)とマングースのショーを観て、『これだ!』と思ってしまったらしいのである。ここで専門家の意見を聞けばまだこの過ちは免れたかもしれないが、とにかく、30頭のマングースが島にやってきた。ところがマングースは夜行性の動物であり、ハブが外を回遊するのは主に昼間である。つまり、『自然界ではハブとマングースはめったに出会わない』のである。(えー!ビックリだ)何でもっとよく考えなかったのかなー。しかも増えすぎたマングースの被害(彼らは雑食だから作物だって食べてしまう)で今度は人間が悩まされることになる。そしてアマミノクロウサギはますます神秘の森の奥深くでひっそりと暮らすことを余儀なくされ、さらに神に近づいて行く。造形的には、毛並みもリアルに再現され、かわいらしい表情を見せるクロウサギ。その実状は残酷で過酷である。ご多分に漏れずその原因を作り出したのは我々人間である。